「ティ、エナ…」


突如頭上から現れた彼女に俺は困惑し、後ろを振り返るとカーテンに包まれていたはずの結晶は真っ二つに割れキラキラと炎の光を反射するただの無機物になっていた。

もう1度目の前を振り向くと、彼女は俺の存在は眼中にないのか、ハンカチを手にしたまま固まっている。

彼女に刺繍をさせ、オルドにあげたあのハンカチ。

本当は俺が欲しかったんだんだぜ、あのハンカチ。

けど、元気がなかったオルドを元気づけるために作らせたハンカチでもあった。

きちんとメッセージカード付きでな。

サプライズってやつ?

あいつなら制作者にきっと気づくと思ったんだ。


「宝物。私の小さな月」


立ち尽くす俺の耳にその言葉が聞こえ、そこでようやく視力のピントが合ってきた。

さっきまでぼやぼやとしていたが、今ははっきりと見える。


七色に透き通る4枚の羽。

すっかり伸びた髪。

さらに白くなった肌。

スラっと伸びた背。


そして、寝転がるオルドの頬に手を添える綺麗な指先。


まるで別人だった。


「っ!危ねえ!!」


瓦礫が落ちてくるのが見えそう叫び走り出したが間に合うはずもなく、ティエナに直撃する、と思い目を瞑った瞬間。


ガキン、と瓦礫が何かに弾かれる音がした。


恐る恐る目を開けると、現れた別の妖精。

男のようだった。


「大丈夫でしたか。あなたはそこの彼をお願いします。僕はあの彼を運びますので、僕について来てください。飛び方はわかりますか?」

「……たぶん?」


早口に言う彼の言葉を一生懸命聞いた彼女は小首を傾げ、そっとオルドに覆い被さった。

こちらに飛んで来た別の妖精は俺の背後に回ると腕を回した。


「僕は敵じゃないから今は大人しくしてて」


彼の背中にあった槍の存在を気にしつつ、俺は頷いた。


「わかった」


そして俺ごと飛んだ男は、後ろから2人がきちんと追い付いてきているのを確認するとスピードを上げた。


「このまま甥の元へ行くよ」


空中を飛んでいるためかなり寒く、風の音でよく聞こえない声を拾って大声で叫んだ。


「甥って誰だよ!」

「ラファ」

「ラ…!」


あいつに甥がいたとは知らず絶句する。

眼下を流れる木や見上げてくる野生動物を眺めつつ、冷静になろうと努めた。

そしてその後会話は無く、あっという間に見慣れた王宮の中庭に着いた。