普通ティーセットは白が一般的で、それは紅茶の色を楽しむためなんだけど、それだとありきたりだから思い切って黒を基調としたデザインのティーセットを選んだ。

内側も黒で底の方は銀が散りばめられていてそれだけで夜空みたいだし、淵の方にも銀の模様があって綺麗だと思ったし、表面もツルツルではなく触ると波状に凹凸があり、その筋の天辺にも銀のラインが入っている。

持ち手も凝ったデザインだし、スプーンも黒だし、皿も黒と銀、ティーポットも同じような模様と色で大人っぽくもあり男っぽくもあるデザインで見つけたときは値段も確認せず即決だった。


「その銀は本物の銀を原料に使用しているそうで、毒が入っていても大丈夫です」


と、変なことを口走ったがケイディスの興奮は変わらなかった。


「本物の銀なんてスプーンだけでいいのに!でもすごいねコレ。中も黒なんて斬新だよね。使うの勿体ないよー」


どうすんのこれー、と言いつつ次々と取り出してテーブルに並べ始めた。

いやもうホント、あの、恥ずかしいのでやめていただけませんか…


「もうこれ最高だよ!」


べた褒めされてさぞティーセットも喜んでいることだろう、とホッとしているといきなりケイディスが立ち上がりティエナを抱きしめた。


「本当にありがとう!大事にするね」


と、左頬に軽くキスされた。

あまりにもスムーズかつ一瞬のことで呆然としたが、ハッと気が付いて左手で押さえた。

驚きが強く羞恥心はなかったが、ふと今まで静かだったオルドと目が合いふいっと左頬を隠すように顔をそらしてしまった。

挨拶みたいに軽いものではあったが、見られた、という事実になぜか悲しくなった。


「あたしには?」

「はいはい」


ちゅっ、と妹にもするとされた本人は呆れたように腰に手を当てて彼に向かって言った。


「ケイドお兄様、酔ってるのね。普段はそんなことしないくせに」

「普段からするわけないじゃないか。恋人じゃあるまいし」

「じゃあなんでティエナにする必要あったのよ」

「つい」

「もう!バカ!」

「酷いなー、相変わらず」


ケイディスはそこで話を切り上げてティーセットを再びじっくりと眺め始めたが、ティエナはもう居たたまれない気持ちになっていた。

逃げたい、と表現する方が正しい。

彼の顔を見れない…!


「でもこれ、なんとなくオルドっぽい」


さらに爆弾発言を落とす彼にギクリとした。

もう耳塞いでもいいですかっ。


「まあ言われて見れば…?」


と便乗するギーヴに非難の目を向けたが、ニヤリと笑われただけだった。

完全にからかわれていることを悟った。


「ねえオルド?」


と、無邪気にケイディスがオルドに向かって同意を求めると、彼は立ち上がり弟の頭を片手でグリグリと押さえつけるという謎の行動をした後無言で足取りも荒くさっさと出て行ってしまった。

まるで嵐が一瞬で通り過ぎたように感じた。


「なんなのあれ?」


と、やられたケイディスだけが頭を押さえて不服そうに口を尖らせたがティエナ以外の2人は違った。


「「……拗ねた」」

「え?拗ねた?」


言うタイミングが被ったことには触れず、というか気づいている様子はなく、リリアナは唖然とし、ギーヴはさも面白そうに口角を上げていた。


「オルドもあんな顔すんだな」

「あんな顔?ってどんな顔?」


こちらからも見えなかったが、ギーヴの角度からは見えていたらしい。


「まー…本人たちの問題だしな。今日はもう片付けようぜ」

「そうだねー」


ケイディスは無視されたのに気にせずティーセットをしまい始めた。


「待って、ケーキ食べちゃうから。パーティーで食べ損ねたのよ」


と、先ほどのことをなんでもなかったようにされたが、みんなでもぐもぐと食べかけのケーキを最後まで食べた。

そのとき、お口直しに飲んだ紅茶はすっかり冷めてしまっていた。