ガチャ…
「っ…!」
ドアが開いた音がして飛び起きるとティエナ同様驚いた様子の4人が中に入ってきた。
まだぼんやりとする頭で上半身を起こすと、バサッと毛布が落ちる音に気づいて座る体勢に戻りつつそれを拾い上げた。
隣に手のひらを当てると冷たくなっていたことからラファはもうすでにいなくなっていたことに気づき、毛布をかけてくれたのも彼だろう、と思った。
まだぐったりとする体を完全に起こそうとするとリリアナに止められた。
「まだ寝てていいわよ」
「そんなわけには…」
「じゃあせめて毛布を体にかけなさい。はだけてるわ」
「ええ…!」
急いで毛布を胸に掻き抱くと、まったく、とため息をつかれた。
確認するとサラサラとした生地だからか、素肌から滑って肩からずり落ちていた。
ああ、と思いながら沈んでいると頭上から声がした。
「大丈夫?」
見上げると疲労が見えるケイディスの顔があった。
「はい…」
久しぶりに言葉を交わしたな、と思いつつ、畏まった正装の上着を次々と脱ぎ始める面々を見つめながらやはり疲れているんだな、と思った。
脱ぎ捨てるとはこのことで、ハンガーにかけずソファーや椅子に乱雑に被せていた。
ギーヴが向かい側のソファーにドカッと音をたてながら乱暴に座りセットした髪をぐしゃぐしゃに崩して天井を仰いだ。
「あー疲れた…」
心の底からの言葉なのか、いつもより低く長ったるい言い方だった。
オルドは早々にシャワーを浴びに行き、ケイディスもお茶の準備をするために引っ込み、見かねたリリアナがパッパと上着を片付けた。
「ケイドお兄様、お水をくださらない?」
そして水を持ってきたリリアナに、はい、と渡された。
「お酒飲んだらしいわね」
「申し訳ございません…ジュースだと思っていたんです」
「飲んでしまったものは仕方ないけど、声をかけてほしかったわ」
「申し訳ございません…」
しゅん、と小さくなった。
頭から毛布を被りたい気分だ。
「頭痛は?吐き気は?」
「頭痛は少ししますが大丈夫です」
「もう。気を付けるのよ」
「はい…」
ああ、心配させてしまうなんて、と後悔を強く感じた。
あのときラファが来てくれなければ今頃どうなっていたことか、と思い出すととたんに体が小刻みに震え出した。
「寒いの?」
「いえ、あ、はい…」
「どっちなのよ」
思わず否定したが説明するのも面倒だと感じ肯定すると、リリアナの眉間にしわが寄った。
ごめんなさい。
説明するともっと怒りそうなんです。
「そう責めんなよ。反省してんだから」
「あなたは黙っててちょうだい。話が進まなくなるんだから」
「おまえのその一言が余計だからだろ?」
「なんですって?」
ああ…また喧嘩が。
テーブルを挟んで、だいたいあなたは、とか、おまえはいつも、とか。
夫婦漫才のような光景が繰り広げられた。
「こら2人とも。お茶持ってきたからそのへんにしてくれない?」
さすがのケイディスでも今は余裕がないのか、ガチャンとわざと音を立てるようにトレーをテーブルに置いたためとしーんと静かになった。
そこに短時間でシャワーを済ませてきたオルドが戻って来た。
こちらも面倒なのか髪がまだ濡れている。
「………はあ」
このだらしない空気を見かねたのかリリアナが盛大にため息をついた。
「執務室にシャワールームをつけるべきだったわね」
と、皮肉たっぷりに言い放った。
このころにはもう体の震えは治まっていた。



