「イエローコリンは元々僕らの世界の植物で、月の光をエネルギーにして生長する。でも人間界だと月の光が弱いから発芽まで時間がかかるんだけど、僕ら妖精はそのエネルギーを少なからず体内に貯蔵しているから、こっちの世界で妖精に触れたイエローコリンは早く育つんだ」


ああ、だからか、と思った。


「枯れたイエローコリンが復活していたのも…」

「そう。僕がエネルギーを分けてあげたから」


最初の頃。

枯れたイエローコリンをあげた後、その花を愛でる彼の姿を見た。

それに対してなぜだろうと思ったけど納得がいったし、自分だけが開花まで時間がかからない、という謎も解明された。


「でも…人の想いに比例して開花しやすいように思うのですが、それはなぜでしょうか」

「それは土地のせい。場所によってシルバーダイヤの影響は違うし、同じ場所で同じ人が育てるから、そういう風に考える人が出てきただけ。本当はそんなのは関係ない」

「それなら、以前リリアナ様の開花が早かったのは…」

「僕がちょっと細工をしてみただけ」


それを聞いて彼を見たけど背中しか見えなかった。


「騙したんですか」

「そうかもしれない。でも試したかったんだ。ずっと人間界にいる僕の力でも開花を早めることができるのかなって。ごめんなさい」


彼は体を起こしてちゃんと目を合わせて言葉を続け、最後に謝られた。

それ以上責める気はなかったけど、人の想いが否定されたことにショックを受けた。

じゃあ、両親が育てられなくなったのはなぜなのか。

心が汚れてしまったからじゃないのか。

そのことについて聞こうと思ったけど、なんだ単純なことじゃないか、と気づいてしまった。

彼らは嘘をつき、おまえしか育てられない、働かざるもの食うべからずだ、と至極当然のように洗脳して、自分たちは何もせずぬくぬくと暮らそうと考えたんだ。

そのせいで自分の人生は悲惨なものになってしまったんだ。


ずっと忘れていた感情を思い出し、どす黒い何かが胸の中に渦巻いた。

怒り…

そう、怒りだ。

ティエナは静かに怒っていた。


でも、彼女の白い部分が顔を出した。

シルバーダイヤの量が減ったんだから、土壌中の月のエネルギーも枯渇してしまってあの人たちではもう育てられなくなったに違いない。

それでも私には備蓄があったから、エネルギーのないあの場所でも栽培できたんだ。


それらの感情が激突して気持ちのやり場に困った。


「ああ、なんだか…」


また眠くなってきた。


「寝ていいよ」


現実逃避かもしれないと思いつつ目を閉じると、距離を詰めてきたラファに頭を引き寄せられてその肩に体重を預ける形になった。


「おやすみ」


頭を優しく撫でられながら、間もなくしてそのまま眠りについた。

ちょっとだけ聞こえた言葉は起きた頃にはすっかり忘れていた。


「君は似てるよ…あの子に」