「眠いと思うけどごめん、話があるんだ」

「は、はあ…」


黒く染めた束ねられた長髪で別人に見えるが、目の色で一目でわかり、なぜあそこにいたのか、なぜ助けてくれたのか、と考えたことで眠気が少し消えた。

でも重い足取りは変わらなかった。


そして話があるんだ、と言われたままかなり歩いて執務室に連れて来られた。

たぶんこの部屋しか普段使わないから知らないんだろうな、と思った。

会場の近くの休憩所とか。


「座ってて。お水持ってくる」


と言い残してさらに奥の部屋に引っ込んだ彼を待つため言われた通りにソファーに座って待つと、戻って来たその手にはびしょびしょに濡れたコップがあった。

きっと注いだときにこぼれたんだろう。


「はい」

「ありがとうございます…」


濡れているけど水が欲しかったのは事実でそれを受け取り一気に飲み干した。

コップをテーブルに置くと、コップの底の淵にそって水溜まりができた。


「落ち着いた?」

「はい」


心配そうに顔を覗き込んでくる端正な顔にどぎまぎとしたが、スッとどいて隣に座ってきた。


「ずっと話さないといけないことがあって…でも、ずっと迷ってた。言うか迷ってた」


彼は両膝の上に肘を乗せて前かがみになった。

反対にティエナはソファーに背中を預けたからお互いに顔が見えない状態になっている。


「僕は君を元々知っていた。ずっと昔から…君が生まれる前から」


そして彼は眠くなる暇を与えないぐらい一生懸命に話してくれた。

自分が妖精であること。

妖精とは何か、ということ。

フェールズと契約している最後の妖精だということ。

妖精王のこと。

自分が王の生まれ変わりだということ。

私の生い立ち…


正直、生い立ちを聞いてもなんとも思わなかった。


眠りについていた、というのも実感がないし、太古の昔に生まれた命だった、というのも想像もつかないことだ。

だから全然驚かないティエナの反応にラファの方が不安そうだった。


「わかった…?」

「はい」

「本当に?」

「本当です」


ああ、でも質問があったな。


「質問してもいいですか」

「う、うん。どうぞ」

「私にも妖精に血が流れているんですよね」

「そうだよ」

「じゃあ、イエローコリンの育ちが私だけいいことと関係はありますか」

「うん。あるよ」


そうあっさり肯定されたことに対して、頭を冷たい何かが走り抜けたように感じた。

ぎゅっと膝の上で手を握った。