ああ、帰りたい。

ティエナはその場で一瞬立ち止まった。


2人と別れ時間差で後から会場に入ると、キラキラとした空間がそこにあり思わず目を細めた。

華やか、というか、エネルギーで溢れている、と表現すべきか。

老若男女問わずフェールズ王国を支える貴族が一堂に集結しているということもあり、自信や活気が感じられた。

貴族を吹っ飛ばして平民と城内の世界しか知らない彼女にとってはこれまで相まみえることのない階級の人たちを拝見するのは今までにない経験で、圧倒されるばかりだった。

ダンスホールの脇ではオーケストラの楽団がうるさ過ぎず小さすぎない音量で演奏をしているのが聞こえ、ドア1枚隔てただけなのにまるで違う世界に迷い込んだみたいだ、と思った。


気を取り直して目立たないように会場入りし、リリアナたちの位置を確認するためにきょろきょろと見回す。


奥のステージの上段には椅子が3つ並び、その中央の王座にはオルドが挨拶に来る人の対応に追われていた。

ダンスホールの中央ではケイディスも挨拶の行列や波があり、その脇で控えている騎士たちはプレゼントを受け取っては奥に引っ込みまた別の騎士がやってきてはプレゼントを持って控える、という流れが出来上がっていた。

そして少し離れたところにもう1つ人だかりがあるな、と思いそちらに目を向けるとリリアナとギーヴがその中央にいた。

それらの光景を眺めながら、やっぱり別格だな、と思った。

同じ人間なのに光って見え、憧れの的になっても仕方なく周りが放っておかない気持ちがよくわかる。

親の七光りとはよく言うが、彼らからはそれを感じさせない美しさ…神々しささえ感じられる。


正装に身を包み悠然と王座に鎮座するオルド。

誰に対しても笑顔で接し、物腰柔らかに対応するケイディス。

微笑を湛え年相応の瑞々しさを感じさせつつ、礼儀正しいリリアナ。


ああ、これが彼らの顔なんだ、と納得した。

この顔が公の顔なんだ、と。


国王の顔をしている彼をもう1度見てからまた視線を外し、彼らに見つからないようにこっそりと人の中に紛れた。

自分がいると気が散るだろうと思い、ひっそりと壁の花になることにしたのだ。

見知った侍女たちとなるべく視線を合わせないようにしつつ進み、人だかりが少ないところを見つけてそこに佇んで会場全体を眺めた。

明るい空気で満たされているこの空間は少し息苦しくもあるけど、彼らの住む世界を覗いているという事実から目を背けまい、と深呼吸をした。


大丈夫。

空気になればいいだけ。

もうそんなことには慣れているじゃないか。


そしてケイディスとオルドの見事な挨拶が終わり、集まっていた人の塊は徐々に分散していった。