外出許可が無事に下り、ティエナは街に下りてケイディスへのプレゼントを探していた。

店の外から食器が見えると、見物するようにじっくりと眺めたり持ち上げてみたりして、元に戻してその店をあとにしまた別の店に入る、という行為を何度も繰り返していた。

彼女は買い物においては慎重に吟味してからようやく決断するというめんどうな性格をしているらしく、さっきからちょっと違う、これも違う、これも違うけどさっきの方がよかったかもしれない、という感じに何軒ものお店を回っており、まだ目星もついていない。

思わずため息が出たが、こういう時間も悪くない、と思った。

相手が喜ぶ顔を想像するだけで楽しくなってくるのが不思議だ。

まあまだ期日まで時間はあるし焦る必要はない、今日は下見ということにしよう、と自分を納得させ、冷たくなった鼻を手袋越しに擦った。


…そう言えば。

ギーヴはどうしただろう。


どこかおかしかった彼の先ほどまでの様子を歩きながら思い出す。

まだ知り合ってから日は浅いが、頼れる人で、物知りで、いつも余裕があるように見えていたのに、あんなに弱々しい彼は初めて見た。

自分を心配してくれていたことがわかり、大丈夫だ、という意味をこめてつい抱きしめてしまったが今思えば恥ずかしいことをしたことに気づき赤面する。

マフラーを口元まで上げ顔を隠した。

そんな行動をしたところで誰も気にしなことはわかっていても、きょろきょろとしてしまいかえって怪しい人に見えていたことだろう。


そのとき。

何かを見つけた。


ふと心を揺さぶられる感覚がして足が無意識に止まった。

何かとは何か。

それを確かめるために来た道を戻り1つの店に入った。


「これ…」


見つけたのはガラスケースに大事に保管されている1つのシルバーダイヤの見事な指輪。

細かな細工がしてあり、複雑なうねりが1点物だということを主張している。


…私はこれを知っている。


どこかで見たことがある。

遠い昔に…


「っ…」


眉間を指で押さえズキズキという頭の痛みに耐える。

さっさとその場から離れ外に出てしばらく無心に歩いた。


新調した茶色いブーツが雪を踏む音が急にキュッキュッと新雪を踏む音に変わりハッとした。

気づけば中央にある大きな広場の誰も足跡をつけていないところに立っていた。

もう少し進んでいたら危うく雪に埋もれた花壇に躓き転んでいたかもしれない。


「はあ…」


気づけば頭痛もおさまっていた。

思わず胸の前で右手で左手を握った。


薬指…


そうだ。

誰かの薬指にあった気がする。


なんだろう。

思い出せそうで思い出せない。


「今日はもう帰ろう…」


と言ったものの、しばらくそこに呆然と立ち尽くしていた。