5000年ほど前。

人間界を散策していた妖精王は人間の赤ん坊をスラム街で拾った。

スス汚れ見るも無残なおくるみ姿の赤ん坊を最初は死んでいると思っていた。

そして抱き上げた瞬間突然泣き出した赤ん坊に妖精王は驚き、そして興味を持った。

すぐに死んでしまう人間がどのように成長するのか観察するため、妖精王はその子をこっそりと妖精界に連れて帰った。

しかしすぐに側近に見つかり焦ったものの、捨てるわけにもいかず育てることになった。


日に日に赤ん坊は女の子になり、少女になり、美しい女性へと成長した。

妖精王は最初はただの観察対象のつもりだった。

美しく成長した彼女を見て妖精王の庇護欲は恋心へと発展し、2人は恋に落ちてしまった。


2人の関係を知った側近は心を痛めながらも密告し、妖精王は人間と結ばれてはならないという妖精界の掟により罰せられた。

妖精王は右目を潰され2度と人間界に行けなくなり、娘は妖精王の記憶を消され人間界に戻された。

そうして離れ離れになってしまった2人。

妖精王は、もう自分のことは忘れて人間として生きた方が娘は幸せだろう、と思いこれでよかったのだと自己完結しようとしたが事態はそう甘くはなかった。


娘は人間界で生き残る術を知らず、すぐに死んでしまった。

妖精王はその様子を人間界と繋がっている泉を通して見ることしかできず、嘆き悲しんだ。

なんて残酷な世界だ、と。

声の届かない娘を想い片目から流れた涙は泉に落ち、人間界に降り注ぎ、娘はとうの昔にいなくなったというのに、長い年月をかけて豊かな生命を育んだ。

娘が亡くなった場所には大きな森ができ、死んだ娘もきっとこの光景を見て喜んでいるだろう、と妖精王は悲しみつつも喜んだ。

その降り注いだ涙はやがて結晶になり、人間のいうところのシルバーダイヤを形成した。

シルバーダイヤは月の光をその中に宿し、それは少しずつ大地に浸透していった。


幸か不幸か。

娘は妖精王の子を妊娠していた。

彼女の身は朽ち果てたが、シルバーダイヤの影響でお腹の中の子供は死なず眠りにつくことになり、長い年月を経て月の光を吸収して成長し、ついに森の中から目覚めた。


妖精王の記憶を残したまま生きていた生まれ変わりはこれを喜んだものの、罰を受けた影響が残っていたのか、そのときはその子供に近づくことができず、せめて自分のいる領土に誘導しようと、攫おうとする他の者の邪魔をした。

その結果、その子供を守ることができたが、彼女の生活を保障することは到底できず、せめてもの賭けで、自分のいる王城に来るよう求人の載った新聞を彼女の歩く道に置いたのだった。


彼女の名前はティエナ。


長きに渡る眠りから目覚めし我らが王の子。