そこからはもうあまり思い出したくない。
サーカス団はテントが鎮火するとすぐに街を去り、薬で眠らされたライオンはその場で騎士たちによって首を切り落とされた。
俺とケイドは何も罰を受けなかったが、オルドだけ2週間自室に謹慎され会うこともできなければ話すこともできず、後で知ったがベッドに片腕を括り付けられていたらしい。
つまり、俺たちの知らないところでオルドだけ重い罰を受けていたのだ。
そして本当は謹慎期間は1週間だったこともわかっている。
要は残りの1週間、オルドはどこかに身を隠し、腕の痣や食事がままならなかったため細くなった体を俺たちにばれないようにするため、その期間に元に戻していたことになる。
山小屋に身を潜めたことはわかっているが、俺たちも中庭にさえ1歩も外に出られず、案の定後で確認しに行ったら中庭にあったはずの抜け道は塞がれていた。
再びオルドと顔を合わせたときは雰囲気が変わっていてなかなか声をかけられなかった。
満身創痍といった感じで1言も話さず、返事や同意はするものの全く意見を言わなくなったのだ。
そんなあいつに俺はキレて一発殴った。
「ただいまぐらい言えっつーの!!!」
殴られた頬を手で押さえて床に転がっていたオルドはしばらく動かなかったが、ゆっくりと上半身を起こして俯いたまま小さな声で呟いた。
「………ただいま」
そして鼻をすすり、目をめちゃくちゃに拭い始めたが、嗚咽が治まってきたところでビックリして何も言えなかったケイドも声をかけた。
「お兄ちゃん、おかえりなさい!」
「……ただ、いま…ただいま…ただいま…!」
ずっとその言葉を壊れたように繰り返して、最後にあいつは謝った。
赤くなった目の潤みは無視してやった。
「…ごめん」
「何されたか知らねえが、俺たちにまで態度を変える必要ねえぞ」
「ごめん…」
「もう謝るな。俺が誘った結果だ。俺の方こそ悪かった」
「お兄ちゃん!あのねあのね!」
いきなり割り込んできたケイドは元気のないオルドにあのときから変化したことを説明した。
ヴァイオリンの先生は解雇され、じじい先生も辞職した。
ヴァイオリンの先生は顔面蒼白で頭を下げてきたため今にも自殺しそうで心配したが、無事にこの城から生きて出て行ったことを知った。
じじい先生はヴァイオリンの先生の二の舞にならないようにと自ら引き下がり、退職後は孫たちと田舎でのんびりと暮らすという。
「だから泣かないで!」
「…泣いてない」
嘘つけ!と言いそうになったがやめておいた。
泣いてないと言いながらまた静かに泣き出していたから。



