ライオンという珍獣が火の輪をくぐる演目になると大歓声が上がった。

一番の目玉だ。


「見てあの牙!凄い!」


1声吠えたライオンの大きな口にはズラリと鋭い牙が並び、それを指差して隣に座るケイドがはしゃいだ。


「爪も!」


柵に囲まれたステージの中でグルグルと歩き回るその動物の太い足にもキラリと光る爪があり、柵を隔てているとはいえあの爪で引っかかれたらひとたまりもないだろう、と思った。

ケイドを挟んで座っているオルドは食い入るようにライオンの動きを目で追っている。

俺もよそ見はその辺にして再びステージに視線を移した。


「ご覧ください!ライオンによる火の輪くぐりです!」


司会がそう言うと、中にいたトレーナーがライオンを火の輪まで誘導させあっという間にくぐらせた。

何度も華麗に飛ぶその大きな図体に俺も頬が紅潮するのを感じた。

なんでこんなにも凄いものを信じなかったんだろう!


「さて、これがラストジャンプです!」


さっきまでは2つの火の輪の間は隙間があり連続して飛ぶような形になっていたが、今度はその2つの距離が縮められた。

どうやら2つをいっぺんに飛ぶらしい。


「行きますよ!…3!…2!…1!」


と、ライオンが助走をつけて大きくジャンプした。

…しかし、僅かに後ろ脚が輪に引っ掛かり失敗してしまう。

でもそれだけじゃなかった。


「きゃあ!」

「わあああ!」


その引っ掛かった火の輪が勢いに負けて床を弾み、柵の隙間から客席まで飛んできてしまったのだ。

もうテントの中は大パニックだった。


「早く消せ!」

「押すな!」

「逃げろ!」


飛んで行った方向が俺らがいるところとは正反対の位置だったものの、混乱はこちらにまで及び大勢の人の波に押された。


「「ケイド!!」」

「お兄ちゃん!ギーヴ!」


背が低いケイドはその波にさらわれ、2人で手を伸ばしたものの届かずにあっという間に見失ってしまった。

俺も立ち止まっていられるわけもなく、蹴とばされないようにしながら人の波を縫って叫び続ける。


「ケイド!どこだ!」


名前を叫ぶも返事がなく、焦りばかりが募る。


「おい、火が!!」

「燃えているぞ!」


そんな声に振り向けば、火がテントに燃え移り天井のロープを伝ってこっちにまで火が迫ってきていた。

だんだんと焦げ臭くなるテントの中。

辛うじて、オルドと俺はまだはぐれていなかった。


「ケイド!!返事しろ!!」

「落ち着けオルド。ケイドもバカじゃねえ。きっと上手く外に出られたはずだ」

「クソっ!!」


ずっと叫び続けるオルドにそう言ったものの、自分を落ち着かせるための言葉でもあった。

自分よりも焦っている人を見るとかえって冷静になれるもので、狭まっていた視界がクリアに見えてくるのを感じた。