妖精の涙【完】



「そ、んな…」


スーの顔をもう見ていられなくなった。


「私にこれをスーさんに渡すかどうか判断してほしいと言われました。最初は断ったんですけど、今の俺では何も聞いてくれない、と言って…」


そんな、自分がスーと知り合うか、仲良くなるかどうかもわからないのに彼がこれを託した理由がわからなかった。

馬車ではスーのことばかり話していて、降りてからあんな話されて。

結婚したい人って…

スーさんしか思い浮かばないじゃないですか…


「ほんの少ししか彼に会っていませんが、そんな私でもわかります」


彼が実家に戻って宿を再建しようと考えることぐらい。


「思い出がつまった場所を捨てて騎士を続けるとは私は思いません。それをするだけの忠義がない…そのことを彼の上司たちは見抜いているから出世させないんだと思います」


いずれいなくなりそうな人をポストに置くわけがない。

いくら一生懸命で働き者でも…

例え太陽のように強い人でも。


「だから…いつ彼がここを辞めるかわからない状況なんです」


そう言っている間にも、カサカサと手紙を開ける音がした。

俯いていてもわかる。

カッターを使わないでビリビリと指で乱暴に封を破り、封筒が床に落ちるのも構わず手紙を取り出す音で。

やっと、ちゃんと彼女が彼に向き合っていることを。


「…行かなくちゃ」


少しして手紙を読み終えたのか彼女がぽつりとそうつぶやいた。

そして手紙を落としたのにも気づかず部屋を飛び出して行くスー。

開かれたままのドアをそのままにして遠ざかって行く足音を聞きながら、ティエナは立ち上がり落ちた手紙を拾った。


「…ぐちゃぐちゃだ」


涙で濡れた手紙。

でも1人のものではなかった。


彼は涙に濡れたままの手紙を彼女によこしたのだ。

乾いてカサカサとしている。


「読めないじゃん…」


と、言いながら封筒にそれをしまった。

涙で濡れていてよくわからなかった、ということにしておこう。

手紙の内容なんてあまり関係ない。

重要なのは気持ちだ。


と、履き忘れ去られた彼女の靴を見ながら思った。