「これは…」


戻るつもりはなかったのだが、最後だと思いつい足がそこに向いていた。

がらんとした部屋に、ピシッと整ったベッド。

その隣にあるテーブルに何か紙が置いてあるのを見つけそれを手にすると、黄色い押し花が細長い紙に張り付けてある物だとわかった。

しおり、なのだろうか。


裏返すと、そこには。


リトルムーン。

花言葉は宝物。


と、書かれていた。


リトルムーン。

聞いたことがある。

フェールズの国花の中でも特に小さいものを指す名前だ。


こんなものがなぜあるのか、と思ったが、これを置いて行った人物は1人しか思い当たらない。

手にしていたそれをそっと懐にしまった。

世話になった礼ということなのだろう、と思った。


とっくに冷めたベッドに手を置いた。

確かにあった温もりはすでに消えており、侍女らしい無機質なシーツがあるだけだった。


不思議な女だった。

あいつのペースにどんどんと巻き込まれ、私こそ公私混同していたような錯覚があった。

警戒せず、常に何でも受け入れてくれるような態度にほだされたが、実はまだ何も解決していないという事実にため息をつく。


バレスの行動の意図。

フェールズの懐柔。


どれも妖精絡みだ。

しかしどうにかせねばならない。


ベッドに腰かけ背中をマットレスに預け目を閉じる。


「私は…」


きっと正しいことをしているのだ、と強引に自分を納得させた。