「虹、」

「なに?」

「この世界に男なんて、星の数ほどいるからね」

「……うん」



それは分かってる。

今も教室を見渡せば、男の子たちが笑っていたり、机に突っ伏して寝ていたりしていて、男の子は千尋だけじゃないってことは、十分分かってるよ。
そういうことを確か水嶋くんにも言われたような気がする。




だけど、無数の星がある中で、プロキオンが一つしかないように。アルタイルが一つしかないように。


この世界に朝比奈千尋は残念ながら一人しかいないんだ。





「私は、虹がつらい思いをしてほしくない」

「……」

「せっかく虹って名前なのに、ずっと雨ばっかりな気がするよ」

「…美優」

「なんてね。うまいこといってみたけど、本当にさ、恋ってもっとキラキラしてるもんだと思うよ。あのイケメンがそれを虹にくれないなら、本当にもうやめたほうがいい」




おちゃらけて、千尋のことを“くそやろう”と言うときとは違うトーン。

真っ直ぐで真剣なその声に、私は頷くしかなかった。

こくりと首を縦にうごかした私に、美優は優しい手つきでよしよしって頭をなでてくれる。