「もう、やめればいいのに」





美優のしかめっ面。
さっきから、相づちは、うんでもすんでもなく、“くそやろう”ばかりで。


怒るって分かっていたけれど、美優は案の定怒って、可愛い顔をゆがませている。




月曜日、距離をおきたい、と言われたこととその経緯を朝一番に美優に説明した。

ちゃんと言葉にしたら、また苦い気持ちが溢れてきて、うまくは笑えず美優の前で弱気な表情を作ってしまう。





後悔してる。

でも、たとえあのときにもう一度戻れたとしても、私はまた同じ事を千尋に言うだろう。





「ほんと、鈍感とは別次元だからむかつくわ」

「ね」

「でも、虹もけっこうあのイケメンに言ったね。虹ってちゃんとそういうこと言えるって知らなかったから、ちょっと見直した」

「見直すって何よ。…でも、うん、たぶん言い過ぎた」

「いや、それくらいがちょうどいいと思うよ、あのイケメンには」





ほんとくそやろう、って美優はぷりぷり怒りながら、むっと唇を尖らせる。


他人ごとなのに、私のためにこんなに怒ってくれる人がいることがこんな時でも嬉しいって思う。
千尋にしてみれば、美優の怒りは、これまた理不尽の一言に尽きるものだろうけど。


私の前の席に座って、顔をのぞき込んでくる。

美優のまるい真剣な瞳は、優しくて味方だって言ってくれているみたいで安心する。