「……あのさ、」
「うん?」
「もし仮に、今から俺が虹にとって嫌なこと教えたとしても、自分は大丈夫だって言える?」
「……なにそれ。そんなの分かんないよ」
変な千尋だ。
そんなイフをつかって質問されても、そんなことは嫌なことがなんなのかはっきりしないと分かるわけがない。
最寄り駅から、自分たちの家に向かっている。
歩くたびに夜に染まってゆくような気がする。
そんな中、千尋は「そーだね」と、ひとりでに納得するように小さく頷いた。
私たちのすむ住宅街が見えてくる。
花柄のワンピースが風にゆれる。
千尋のネイビーのロングTシャツは夕闇と相性が良くて、うまく溶け込んでいた。
だから、余計に今どのくらいの距離に千尋がいるのか分からない。
物理的な距離ではない。こころの距離。
歩くペースは絶対に私に合わせてくれる千尋。
背中ばかりみせるくせに、その背中が追えないところまでいくことはほとんどない。
千尋は、どんな人を好きになるんだろう。
どんな女の子のことを可愛いなと思うんだろう。
自爆しそうで怖くて聞けないことも、今日ならうまく聞けるだろうか。そんなことを思いながら歩いている。
と。



