なんでもあるような顔で、なんでもないなんて言われても説得力の欠片もない。
だけど、なんでもないと言って口をぎゅっと結んでしまった千尋には、言ってほしい、と頼むことも憚られて、そっか、と無難な相づちを返すことしかできなかった。
どうしたの。何があったの。
夜の風が髪を揺らす。
ついでに心まで揺らして、千尋、とそっと名前を呼ぶ。
千尋はお風呂上がりの熱を夜の空気に奪われて少し寒くなったのか、手をスウェットのポケットにつっこんで、一度空を仰ぎ見た。
私の頭上には月がのぼっていないから、せめて星があれば、と思ったけれど、今日はあいにくの曇り空だ。
「虹、明日って何してんの」
「明日?別に、何もないよ。家でのんびり過ごす予定」
「うん、そっか」
千尋が瞬きをおとす。
静けさと、こころの慌ただしさの同居。
居心地の悪さを抱えながらじっと千尋を見ていたら、千尋は急に表情の中から翳りを隠して、いつものようにその端正な顔に笑みを横たえる。
それから。



