『…無理ならこのまま電話でいいけど』
「………」
『いや、でも、ごめん。やっぱり、外出てきて』
「…分かった、今行くね」
なんだか、切羽詰まっていたような声に戸惑いながらも、電話を切ってベッドからおりる。
本当に、どうしたんだろう、千尋。
今日、一緒に帰ってる時は何も変わった様子ではなかったし、いつものようにあっさりばいばいをして家に入っていったのに。
ルームウェアーに、パーカーだけ羽織って、お母さんに「千尋とちょっと会ってくる」と声だけかけて、家を出た。
玄関の扉を開けば、秋の夜のひんやりとした空気に包まれる。
家の横の街灯の下に立っている背の高い人影に静かに近づけば、スウェットというラフな格好をした彼が顔をあげた。
「いきなりごめん、」
「別にいいよ」
夜だから、とか、空気がひんやりとしているから、とかそういう理由をあてはめられないくらい寂しい表情をして曖昧に微笑んだ千尋が、街灯のほのかな光のしたで私の髪に手を伸ばして、毛先を柔くつかんだ。
そうする意味が分からなくて、じっと千尋を見上げていたら、彼は目を伏せた。



