『千歳くんじゃない。千尋』
「…ごめん、間違えた」
『…別にいい。俺こそごめん,千歳くんじゃなくて』
性格も顔もあんまり似ていないのに、声だけは似ている兄弟だ。
やってしまった、ってこころの中に後悔の気持ちが膨れ上がっていくのは、私だけの問題で。
たぶん、千尋は別に気にしていないんだろう。
だけど、どんな理由にしろ、千尋と千歳くんを、私は間違えたくはなかった。
千尋が私に電話をかけてくることは、そんなに頻繁ではないけれど、時々あることだ。
だから、今から何を言われるのだろう、なんて身構えることも別になく、ベッドにごろんと仰向けになったままでいる。
「どうしたの?」
『……ちょっと、今、外出てこれる?』
「え、今?」
夜に電話をかけてくることは珍しくないとはいえ、呼び出されることは今までになかったから思わず、仰向けに寝転んでいた身体をおこして、壁によりかかる。
声が、なんとなく悲しい色をしているのは気のせいか。
電話だから、そう思ってしまうのか。
ぎゅっと握りしめた携帯は、いつの間にか体温がうつっていて、ほんのり温かい。



