大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】





「先に言うと、待ち合わせ場所は変えないから」



先手を打たれて、俯いていた顔をあげて千尋を睨めば、虹、今絶対言おうとしてただろ、と何でも分かってると言わんばかりのドヤ顔をされた。


もう、甘い声じゃない。

そういう切り替えはわざとなのかどうかは定かではないけれど、完全に無意識ってわけではないのだろう。



先に下駄箱の方に歩き出した千尋を追う。

今日聞いた水嶋くんと美優の話を思い出して胸にじんわりと温かいのか冷たいのか分からないものが染み出してくる。

それでも、千尋が、虹、と靴をはきおえて私の名前を呼ぶから,その声に染み出したものはすぐにさらわれていった。












「虹、今回は数学のテストちゃんとできた?」

「んー、微妙かも」

「俺が教えたのに微妙って腹立つなー」

「だって、きよ先生が作ったんだよ?難しすぎたもん」

「あ、今回きよさんが作ったんだ、なら、まー仕方ないか」




明日でようやく中間テストが全教科終わる。

今回も、いつものように数学と物理基礎は千尋にみっちり教えてもらった。


私の部屋で、相変わらずスパルタな千尋に、頭がパンクしそうになりながらも頑張って公式や解法をたたきこんだけど、どうにもだめだった。
赤点はさすがに免れただろうけど、千尋が自分のテスト時間を割いてまで教えてくれたことを考えると、ちょっとそれに見合う点数はとれていないと思う。




はー、と悲しくなって思わず溜息をついたら、千尋の手のひらは何のためらいもなく、私の頭をなでた。

そういうことを、千尋は、やっぱり普通にしてくるのだ。