「あのっ、最初に聞きたいんだけどっ、」
「うん」
「…枢木さんとは、付き合ってないの?」
「付き合ってないよ、ただの幼なじみ」
「あっ、じゃあ、百瀬ひなのちゃんは…?」
「ないよ」
優しい千尋の声。
その声音の中に、小さな煩わしさを感じたけれど、たぶん相手にはひとつも伝わってはいないだろう。
ふー、と長い溜息を小さく吐く。
待ち合わせ場所を変えたい、という私の提案をそろそろ千尋は受け入れてくれてもいいのに。
千尋が告白されて、その流れで私への恋愛感情を否定して、それでも、千尋はそのことに対して私が何も感じていないって未だに思っている。
千尋だけたくさん告白されることに対して、私が僻み程度の感情しかもっていない、なんて勝手な勘違い。
だけど、それも、もう慣れたし、わざわざ訂正することでもない。
「あのっ、じゃあ、…じゃあ、って言うのも変なんだけど、」
「うん」
「私、と、っ、付き合ってくれませんかっ?……あの、私、朝比奈くんのことがずっと、好きだったの」
「えー、俺のどこが好きなの」
甘い声。
なめているような優しい声をだして、きっときれいに微笑んでいる。
聞き慣れた声、聞き慣れた感情、季節がめぐっても変わらない。
ちら、と下駄箱から一瞬だけ様子をうかがったら、私に背中をむけて千尋に向き合っている華奢な女の子越しに、千尋と目が合って。
“待ってて”とその口が動いて、すぐに目をそらされた。



