「――優しくて、優しくて、ただ、優しさしか持ち合わせていない人」








言い終わって唇を閉じた瞬間、なんだか泣きたくなった。









「………、」

「………」





沈黙が流れる。

私にとってはたいしたことのある、千尋にとってはつまらないただの静寂。
捕まえていた千尋の瞳を逃がすように瞬きをする。




それから、瞼をあげたら、千尋は表情を小さくくずして、無邪気に笑い出した。千尋がまだ難しい顔ばかりしていた人見知りの時代にも、時折見たことのある笑い方。

本当に自分のことにだけは鈍感な千尋だ。




「はは、絶対お前真面目じゃない、それ」

「ううん、真面目だよ」




嘘、って千尋はまだ小さく笑いながら、さっきの仕返しみたく、自分の膝を私の足に弱くぶつけてくる。

軽やかな骨の音がした気がした。軽やかで、中身なんてない、空っぽな音。