隣にいる千尋を見上げて、勇気をもってポケットに手をつっこんでいる彼のブレザーの裾をつまんだら、ぎゅっと唇を結んでわずかに眉をよせている千尋がその顔のまま私に視線をむける。
「千尋、」
「……うん」
「………」
別に、言えるようなことはなかった。
どう考えても朝のことは私は悪くないし、今、謝るのも違うと思って。
だけど、気まずいのは嫌だ、ってそういうテレパシーみたいなものが千尋に伝わったらいいなと思ってじっと目を見つめる。
そうしたら、千尋の喉仏が一度、くん、と動いて、それから、彼は結んでいた唇をゆっくりとほどいた。
「朝、言い過ぎてごめん。わざと嫌な風に言ったから」
私につかまれた裾を解放させようとすることもなく、それでも難しい顔のまま、ごめん、と言葉をおとした千尋に、躊躇いながら、小さく頷く。
いいよ、って言う代わりに、千尋の制服の袖を弱い力で二回引っ張った。
それが千尋はどういう意味かちゃんと分かったんだと思う。
よっていた眉は元に戻って、難しい顔はまだ継続中だけど、その隙間に安堵の色が浮かぶ。



