そのとき、私の背中の向こうで、ガチャリ、と音がして。





瞳をあわせていたはずの水嶋くんの目が私の後ろをみて、それからすぐに視線を私に戻した。




何の音だ、と思って、振り返ろうとしたけれど、それは、叶わなかった。





――水嶋くんの整った顔が突然近づいてきたから。




サボンの淡い香り。
瞳の拘束。


逃がさない、なんてゆるやかな表情の後ろでそんな言葉が聞こえるような。
かちり、と合わさった目がそう言っている。



そして、手が伸びてきて、私の髪の毛をつつむようにさらりとなでた。

そのままわずかに引き寄せられて、驚いて、へ、と間抜けな声が喉の奥で漏れる。

未だ至近距離にいる水嶋くんの口元にゆるやかな弧がえがかれる。


彼は、そのまま小さく唇をふるわせて、「髪にゴミ、ついてたから」と私以外には誰にも聞こえないような声でつぶやいた。


なるほど、ゴミをとってくれたんだ、そっか、そっか、なんて自分の意思とは関係なく加速していた心臓を落ち着かせるように頷いたら、ようやく水嶋くんが離れていく。