「でも、ほんとうはすぐ元気じゃなくなる」

「…………」


「だからさ、」




蛍光灯の光だけを頼りに千尋を見つめれば、なんとなく悲しんでいるように感じて、千尋、と思わず名前を呼んだ。



暗がりで、千尋のことなんて全然わからない。


でも、陽があたって、千尋をうまく瞳にうつせたって、分からないことばかりだ。





私は、千尋のことが、今はもう、よく、分からない。



分かるのは、千尋が私にしてくれることだけだ。




悲しいときそばにいてくれる。
意地悪も挑発もしてくるけれど、なんだかんだずっと優しい。






「ーーだから、俺がそばにいてあげる」




千尋の優しさがどこからくるか分からないけれど、いつも私はたまらない気持ちになる。







優しくしてほしい。

でも、本当は優しくしないでほしい。




その矛盾の先で、私は、まだ千歳君を好きだと千尋に言う。


千尋は、それをまっすぐに信じている。








千歳君。

三歳年上の男の人。




私が初めて付き合った人。






__千尋のお兄ちゃん。