と。



「……、」




思わずUターンしようとしたが、遅かった。

なんでって。



「枢木ちゃん、遅いね」


Uターンする前に目が合って、気づかれたからだ。




下駄箱によりかかって、眠たそうに目をこすって、それからゆっくりと私の方に歩いてくる。

私は立ち止まって、憂鬱とも不安とも焦りとも少しだけ違っていて少しだけ似ている感情を抱えたまま、こっちに歩いてくる人をじっと見る。




肌寒くなってきた季節だから、だぼっとしたカーディガンを着ている。歩くたびにだらしない足音がして、彼は音までゆるいんだ、なんて少し呆れる。



目の前まできた彼が、「一人なの?まー知ってたけど」と嫌味のようなことを言って、首をこてんとかしげた。







ひとつだけ厄介なこと。




「ーー水嶋くん、どうしたの?」



そう。

それは、彼、水嶋くんが、いつもタイミング悪く私の前に現れることだ。