「でも、家庭環境がくそ悪い」
「え、」
「おまけに、リストカットもするし、今、親が離婚調停中。もうすぐ終わるらしーけど」
「……っ」
「なんか、ストレスたまった母親に出てけって結構家頻繁に追い出されるらしーよ」
「……で、こっからは俺の憶測だけど、」
「その後から、朝比奈はたぶん、百瀬の話し相手になってあげてんじゃないかなーって。女に対する態度はあんまよくないけど、変なとこで責任感つよそーじゃん、朝比奈。一回深刻な話聞いたんだから、責任取らないとって感じなんじゃねーの。で、放課後の気晴らし?とか付き合ってあげたり、昼一緒に食べてあげたり。リスカの後とか見せられたら、助けないとって思ったんだろうねー」
「………」
「でも、百瀬のリスカはビョーキだから朝比奈にはどうもできないと思うよ俺は」
「…ビョーキ、って」
「あー、俺ね、中学も一緒だから百瀬と。よく知ってんの。別にあいつ死なないよ、断言できる。そういう切り方してるし。久しぶりに助けてくれる人がいたから、あいつもうれしくて朝比奈によりかかりだしたんだろうねー」
性格が悪い。
というよりも、こんなことをさらっと平然とした表情で言う水嶋君にじわじわと恐怖の感情が生まれる。
血も涙もない、そんな言葉が似あうようなことばかりを言って、ゆるりと笑われたら、正しいことがすべて手から滑り落ちてしまうような気持ちを抱いてしまう。
それに、水嶋君が、百瀬さんのことを“あいつ”と呼ぶことや、百瀬さんのことをよく知っているような口調が少しだけ引っかかった。
だけど、それよりも。
百瀬さんと千尋のことで頭はいっぱいで。



