正直今は、水嶋くんのことよりも、千尋と“百瀬”さんのことでいっぱいなのに。



呼び止めてわざわざ言うことでもないようなことを、___千尋が別に深く気にして言ってるわけでもないようなことを言われると、無性に腹が立ってくる。




「言ったよ」

「記憶力いーね、虹」

「誤魔化さないで。千尋は言ってた」




千尋を見上げて、睨むように目を細めたら、千尋はなぜか女の子たちの告白をことわるときと同じ、甘いつくり笑いを浮かべた。


なんで、今そんなふうに笑うんだ、と思ったのもつかの間のことで、千尋が偽物の甘い微笑みをはりつけたまま、私に一歩近づく。





「うん。じゃー、ふつうに撤回する」

「……、」

「虹、」




ポトリ、灰色で満たされていた心にひとしずく落ちたもの。




「水嶋は、だめだよ」






その色が、何色かは分からなかった。