「帰ろ、虹」

「…うん」




千尋と一緒にいたい気持ちと、
好きを知ってもらいたい気持ち。

今、天秤にかけたら、前者に手を伸ばしている弱い自分がいる。





「…千尋、」

「ん?」





「…この前の。花火の時の、……あれ、嘘だから」




隣を歩く千尋を見上げたら、千尋は、一瞬だけ驚いたような顔をしたけれど、すぐにいつもの表情に戻って、ゆるく頷いた。




「分かってるから気にしなくていーよ」



それから弱い力で、さりげなく、こつんと自分の肘を私の腕にあててくる。

生まれそうになった気まずさをそういう風に解消しようとした千尋に、私はもう、がんばって笑顔をつくる以外の選択肢はなかった。







いつも通り、今まで通り。

結局、それが一番幸せなのかもしれない。






そうやって、結局想いを伝えることもすぐに諦めて、幼なじみという立場でそばにいようなんてずるいやり方にすがりつく。




このままでいれば、ずっと千尋はそばにいてくれるって思った。

千尋の優しさは、これからもずっと私にだけだ、と思い込んでいた。










千尋が、私以外の女の子と仲良くなるなんて、
そんな可能性ひとつも考えていなかった。