放課後になると、この前のことなんて何もなかったかのように、千尋は下駄箱で私を待っていた。


あの日、冷め切った顔をしていた千尋はもうどこにもおらず、私の姿を視界にいれると、少しだけ表情を柔らかくさせる。




千尋のことだから、と予想はしていたものの、あまりにも普通で、あの夜が幻みたいに思えてくる。

それから、やっぱり、千尋には、何一つ届いていなかったんだ、ってあの夜に十分思い知ったことを、改めて突きつけられた。




私が自分のことを好きなんてありえないから気にする必要なんてどこにもない、って千尋の今までと全く変らない態度がそう言っている。


ふられるのと同じくらい、自分の恋心を受け取ってもらえないのも辛い。


表情をつくることも忘れて、じっと千尋をみていると、首をかしげられる。




なんでもない。

なんて、そんなわけないけど、なんでもないよ、って言うしかない。