第九話 再会と涙

ー翌日。

悠仁、紫音、陸の三人は亜門のいる天文部の部室に来ていた

「..そういえばさ、霧島さんは連れてこなかったのか?」

大学に向かう電車の中で、陸はひょこっと紫音の顔を覗き込む

「んー..まあ、なんだ。
物事には順序ってものがあるからな」

「順序ー?」

紫音はそう言うが..分からない、といった風に顔をしかめる陸

「..悠仁。
あの人に会う前に..お前に確認しておきたいことがある」

「うん?..なに」

それまで黙って音楽を聴いていた悠仁は紫音側のイヤホンを外して向き直る



「..お前は、何を探しているんだ?」



..何を、探してる?

「何ってそりゃあ..日南川に決まってんだろ?何言ってー」

「..悠仁に聞いている。陸は黙ってろ」

「....」

「..悠仁、これは俺の...いや、みんなもう、何処かで一度は、思っているはずなんだ」

「...、」




「..霧島寧々と、日南川寧々が
同一人物なのではないか、と」




ーーードクン、

「..?!
で、でもあれは、俺の仮説だったはずじゃー」

「陸が立てた仮説は誰もが口に出さなかっただけで、一度はみんな思ったはずだ」

陸は目を大きく見開いて驚く

「..悠仁、もしあの子が本物の...お前が探している"日南川寧々"だったなら。

お前は...どうする?」

「..っ、」

..

...だめだ

胸がさっきから煩くてしかたない

ばくばくと激しく脈打ち、紫音の声が遠くなっていくのがわかる

「...」

右横にいる紫音は、はっきりと俺の顔を見ている

「...、」

左横の陸は心配そうに俺を見つめる

「....」

..

俺は..俺、は...


ーその時だった。



ドッ、ーーーーー..ッッッ....!!



「うわっ?!!」

「ーーーっ?!」

「なっ....?!!」

まずまずの数の乗客を乗せた電車は何かにぶつかったのか、激しい音と共に大きく揺れる

その衝撃で周りの窓ガラスが割れ、電車内は騒然とした

『みなさん落ち着いてください!
速やかに避難指示を出すので、焦らずに職員の指示に従ってください!繰り返しますー..』

「..まーたこれは...へんな時に乗っちまったなぁ」

陸が服にかかったガラスの破片をタオルで拭いながら言う

「このままだと予定通りにあの人の所にいけない..どうするか...」

「え〜多少は遅刻してもいんじゃねえの」

「..陸。相手はあの亜門先輩だぞ
しかも今回は用件が用件だ」

「..ほんっと、タイミングわりーなぁ」

そう吐き捨てると、陸は徐ろにスマホを取り出して誰かに電話を掛けた

「...あー、もしもし?俺、陸だけど。
..うん、そう。あと何分で来れる?

ー..二十分?!それじゃあ間に合わねえっつーの!!」

段々と雲行きが怪しくなるのを横目に、紫音はにやりと悠仁の方を見る

「行けそうだな」

「...マジで?」

明らかに行けそうな雰囲気で無いはずなのに、紫音は謎の余裕に満ちていた

「..五分だ。五分で来やがれ!」

それだけ言うと、陸は一方的に電話を切った

「ふーーーー..。
悠仁!多分間に合うぞ!」

先程と打って変わり、いつもの笑顔に戻る陸に拍子抜けしながら苦笑いする

「どうせ瀬名さんだろ?..あの人も毎度毎度、ご苦労なこったな」

紫音は座席に散ったガラス片を払い、ゆったりと座ると足を組んだ

「それじゃ、瀬名さんが来るまでゆっくり待ってよーぜ」

「五分で来なかったらフルボッコだな〜」

陸も笑顔でそう言いながら紫音の隣に座る

...瀬名さん、というのは陸の爺さんが仕切ってる組の人で。
見た目はめちゃくちゃ物腰が柔らかいが、喧嘩をさせたらかなり強いと聞く

それなのに陸にはかなり甘いらしく、よく陸にパシられているのを見た

「ったく..あんま瀬名さんをパシんなよ、陸」

「え〜でもあれだぜ?
瀬名、俺のことだいっすきだからさぁ」

ま、俺も瀬名大好きだしな

そう言って笑う陸

「おっまえなぁ..さらっとそんな恥ずかしーこと言うなっての」

「えー」

紫音が呆れた顔で言うが陸は気にしない