この町には本屋は2軒ある。

大きい本屋と小さい本屋だ。

私がバイトをするのは、小さい本屋。

大きい本屋だと忙しいと思うので、こちらにした。

その分、バイト代は安い。

本屋に入る。

いつものことだけれど、お客はほとんどいない。

「いらっしゃーい……って桑野さんか」

店長さんが暇そうにしている。

店長さんは50代のおじさんだ。

こんなに暇なのに、どうしてバイトを雇っているのだろうか。

私は息を小さく吸う。

「こ、こんにちは!」

いつもは消えそうな声で挨拶するけど、今日は違う。

しっかりと、店長さんに届く声で挨拶した。

店長さんは驚いて、口をぽかんと開けていた。

私はバックヤードに入り、エプロンを着る。

今日も頑張ろう。



掃除をしていると、店長さんに話し掛けられた。

「桑野さん、何かあった?」

「友達が、できました」

「そう、良かったじゃん」

まだ、入部しただけだ。

でも、もう友達だと思う、特に浜岡さんとは。

正直、友達という関係には、未だに疑いを持っている。

また、裏切られるんじゃないか。

ひどいことを言われたり、されたりするんじゃないか。

そんな思いもある。

だけど、少しずつ前へ進みたいと思った。

私は私の居場所を、自分の力で見つけたい。

この世界に私は存在してもいいんだって、思いたい。

「桑野さん、レジ入って」

「あ、はい」

いつもはやりたくない接客も、少しだけ気持ちが軽い。




バイトが終わった。

バックヤードで着替えをして、家路に着く。

明日は休みだ。

何をしようかと予定を立てながら歩いていると、スマホのメッセージアプリに、メッセージが来た。

見ると、浜岡さんからだ。

明日、一緒に出掛けようとのメッセージだった。

友達と一緒に出掛けるなんて、何年ぶりだろうか。

小学校低学年の時以来だから、10年ぶりくらいか。

私は少し迷ったけれど、「いいよ」と返事をした。

私の返事から10秒も経たない内に、浜岡さんから変なスタンプが返ってきた。

意味はよくわからない。

さて、どこに出掛けよう。

何を着ていこう。

いろいろな思いと、期待が湧いてくる。

足取りはどんどん軽くなった。