閑話休題。

ともかく、互いに必要なものを部屋から運ぶということになったのだけど。


『家具はこっちで用意しておく。向日は生活と仕事に必要なものだけ運べ』


と、至れり尽くせりの引っ越しとなり、話し合いから一週間後の本日、日曜日。

蒸し暑さを感じながらも夜な夜な詰めた段ボール十箱ほどの荷物を自室に運び入れ、荷解きが終わったのは日暮れ前だ。

そして現在、東雲部長は『少し出てくるがすぐに戻る』と言って外出中。

そんな部長と私の自室は二階で、隣り合わせ。

結婚生活を体験するといっても、互いのプライバシーは尊重すべくそこは別室だ。

というか、別室でなければ困る。

私は人と接することは好きな方だけれど、さすがに深く知りもしない男性と同室で寝起きはハイレベルすぎて無理。

いくら東雲部長がかっこよくて仕事ができて女性社員の憧れの的だとしても無理。

東雲部長もプライベート空間は確保したかったから、物件を見せてくれた時に部屋を当然のように分けたのだろうし。

そもそも、部長はなぜ私をお試しパートナーに選んだのか。

東雲部長ならいくらでも試してくれる人がいるだろうに。

私が結婚願望うっすい女だから?

一緒に住んでも間違いが起きなさそうな女だから?

あれ、それって私に魅力がないってことじゃない?

そうならない?

つまり、部長から見て私は女じゃない……っていやいや、そんなそこまでひどい──。


「お前はトドか」


人ですらなかった……!