愛を私の音色に乗せて。



「ごめんね!お待たせしました。」

そう言って現れたのは
審査員のインテリお兄さん。

「あっ、どうも、」

「そんなにかしこまらなくていいよ?
僕は大野尚人です。よろしくね、紫音さん」

「よ、ろしくお願いします…!」

「もう1人の審査員はちょっと忙しくて、僕1人なんだけど、
ちょっと着いてきてもらえる?」

「はい」

大野さんと言う方の後について、

“未発表室”

と書かれた部屋に案内された

「ここ座って待ってて」

奥へ入った大野さんは、何かを持って戻ってきた

「お待たせ。紫音さんこれから用事とかある?」

「いや、特にないですよ?」

「お、良かった良かった!
あのね、この本を読んで欲しくて…」

そう言って差し出された本は

“世界は愛が教える”

という題の本だった

「…今読むんですか?」

「うん!そんなに長くないからすぐ読めると思うんだけど…いいかな?」

「わかりました!」

「ありがとう。僕この部屋で作業してるから、読み終わったら呼んでね」

「はい」

それにしても、どうして急に本?

本の内容は、会社を経営する男の人が自分を救ってくれた人に恋をする話なんだけど、
その男の人は昔に暗い過去があって、

それを邪魔者扱いされながらも

必死に救い出そうとするアルバイトの女性に惹かれて行くっていうラブストーリー

はじめの方は暗くて重たいな…って思ったけど、

ラブコメ混じりのすごくいい話。
夢中で読むとあっという間に終わった

「大野さん?」

終わったので呼んでみる

「…もしかしてもう読み終わったの?」

「はい、とってもいいお話でした!」

「読むのすごい速いね…
実は、この話にあった歌を紫音さんに作って欲しくて読んで貰ったんだ」

…はい?!この話にあった歌?!

「えと、それはどう言う…」

「凄く急なんだけど、明後日の最終審査のときにそれを歌って欲しくて…出来るかな…?」

最終審査のときって…練習時間どんだけ短いの?!

「もちろん審査の時は楽譜見て貰っても間違えても大丈夫!
無理に全部作らなくても1番だけでもいいんだ。出来そうかな…?」

出来ないことはないだろうけど、
…と言うより、最終審査って事は?

「あ、あの…最終審査って、」

「今日の審査に通ったんだよ。おめでとう!」

…嘘。通ったの、?
少し期待はしてたけど、まさか、本当に通ったの?!

「で、歌の方なんだけど…出来そうかな?」

いや、これはもう

「やらせてもらいます!」

やるしかないよ!

「本当?良かった…ありがとう!
もし、なんか分からない事あったら連絡して?」

大野さんの名刺を渡される

「ありがとうございます!」

名刺なんて初めて渡されたし、これだけで嬉しいや。