俺の反応を見て、亘さんは完全にうつむいてしまった。そして、深いため息を吐く。
「どうして……少し頬を上げるだけでいいのに……」
「それが、亘さんにとって簡単じゃないんだから仕方ないだろ」
「え……? そ、それは、そうなんですが……」
亘さんは不思議そうに俺を見る。
ん? 俺、なんか変なこと言ったか?
「笑ったことはあるんだよな?」
「はい。……もう、記憶も曖昧ですが……」
……そんなに笑ってないのか。
でも、悲しそうな表情や驚いた表情、照れることも亘さんはできる。だから、表情筋には何も異変はないはずだ。
原因がわかっていれば、対処方法も見つかると思うんだけど。意図的に笑わないなんて、きっと何かのトラウマがあるんだろ。精神的な問題なら、絶対それを克服できればすぐに笑える。
「亘さん、原因を教えて」
亘さんのことが知りたい。俺に協力ができることがあるなら、頼ってほしい。
亘さんは膝に乗せた両手をぎゅっと握りしめる。
「ええと……中学一年生のとき、わたしの笑顔は人を不幸にすると言われて笑うのを控え初めました」
感情を押し殺すように、淡々と、亘さんは話し出した。



