俺よりずっと小さな、女の子の手。俺は、こんな手に救われているのか。


ぎゅっと握ると……うん。やっぱり、落ち着く。


亘さんは顔を逸らしたまま横目で俺を不思議そうに見た。俺が手を握ってるのに、ここでは赤面しない亘さん。俺は亘さんのこういうところが気に入っている。


まずは亘さんから。父さんだけだった俺の世界に招き入れる。それから、あの四人もいつかは……。



「帰ろうか、亘さん」


「……そうですね。ええと、では、手を離してください」


「離さなきゃだめ?」


「え、駄目ですよ。困ります」


「えー」


「えーじゃないです。メモ帳に、『和泉くんは手を繋ぐのが好き』って書いてあげましょうか?」


「えっ、だめ。それこそだめ。おいっ、何取り出そうとしてるんだよ」



亘さんが自由な方の手でカバンのポケットからメモ帳を取りだそうとした。そのとき――ぽろっと生徒手帳を落とす。


地面に着地したそれを俺はそれを何気なく拾って、カバーだけを掴んだ際にぶら下がった中身が目に入ってしまった。


証明写真のところに、何か紙が挟まって――


生徒手帳が勢いよく奪われた。



「……ごめんなさい。ありがとうございます」



顔色を悪くした亘さんは握られた手を振りほどくと、「先に帰ります」と走って行った。


ひとり残された俺は亘さんの後ろ姿を見て相変わらず速いなぁ、なんてのんきなことを考えて、紙に書かれていた言葉を思い出す。




――――『笑顔を忘れろ』。




……亘さん。


俺も、亘さんのことが知りたくなって来たんだけど。