亘さんは世渡り上手



駅前に到着したときにはちょうどクリスマスツリーが点灯するところを見ることができた。


叶葉は写真を撮って、早速希望ちゃんに送っている。


ツリーの前で、どこかの高校の吹奏楽部がクリスマスらしい曲を演奏し始めた。


帰りのサラリーマンやカップルが次々に足を止めてそれに聞き入っていく。


トランペットなどの金管楽器の他、ハンドベルを用いてクリスマスの空気を彩っている。



「理人くん」


「なに?」



演奏に目を向けたまま、叶葉は俺に言葉をかけた。



「また来ましょうね」



……。


返す言葉が出ない。


行きたくないわけじゃなくて。


また来ていいんだっていう感動が邪魔をして、喉の奥が絞まる。


叶葉が言うなら、絶対来れるんだと確信できるんだ。


それを実感して、噛み締めるごとに嬉すぎて苦しくて、胸がいっぱいで、いっぱいいっぱいになって。



「――うん、もちろん」



やっとのこと絞り出したのは、誰でも言える平凡な台詞だ。


でも、それに乗った感情は俺だけのものだから。


ようやく手に入れた本物の感情。


もう絶対手離さない。