亘さんは世渡り上手



亘さん。


そうやって言ってくれるのは嬉しいけど、ちょっと過大評価しすぎかな。


いや……それとも、俺が自分のことを過小評価してるのかも。


ふふっ、というお母さんの笑い声で、亘さんは我に返り、じわじわと顔を赤く染めていく。



「な……なんでみんな何も言わないの」



俺は改めて愛しさを噛み締めていた。うっかり口を滑らせて余計なことを言わないようにしながら。



「叶葉、いい恋人を持ったわね」


「お姉ちゃん! やっぱりぜぇっったい手放しちゃダメだよ!」



お母さんと妹は、一呼吸置いてそんな言葉を。


お父さんは――



「……和泉くん」


「は、はい」


「ありがとう」



顔を合わせて、初めて見る笑顔。


親子なんだなぁ。亘さんとそっくりに笑う。



「はい!」



そして俺も笑顔で返す。


俺のこの笑顔も、亘さんからもらったものなんだ。


子供から笑顔が消えるって、どんな気持ちなんだろう。


それがどんなに苦しいことなのか、俺には想像もできない。


この家族はきっと無理に笑わせようとはせず、自然に戻るのを優しく待っていたんだ。


いいな、家族って。


家族って、いいよな。