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家のドアを開ければ、そこには必ず父親が立っている。



「ただいま、父さん」


「おかえり、理人」



父さんは涙目になって目を細めると、ゆっくりと俺を抱擁した。


柔らかい洗剤の香りが鼻をくすぐる。


さすがに高校生にもなってこれは恥ずかしい。


だけど、抱き返さないといつまでもこうなので、仕方なく父さんの背中に触れた。



「今日も、大丈夫だったか」


「うん、俺はもう平気だよ」



落ち着く。


学校にいると、亘さんといると、邪な感情ばかり溢れてくる。


それは、疲れる。感情には、エネルギーが必要なんだ。


俺だって休める時間くらいはほしい。


家にいることが唯一気が緩む方法だ。



「さ、ご飯はもうできてる。一緒に食べよう」


「うん、そうだね」



父さんの笑顔を見ることが、俺にとっての安らぎだ。


温かい夕飯と、優しい父さん。今の俺にはこれで充分なくらいの幸福で満たされる。


父さんも俺を必要としてくれているのがわかる。


当たり障りのない会話の中で、お互い頑なに触れない部分があるのはわかってる。


でも、それが気遣いってやつだろ。


俺には父さんだけで、父さんにも俺だけなんだから。


失いたくない。だから大切にするんだ。