「あんまり気にすることないよ」



亘さんの隣に並ぶと、優しく笑いかける。


伝わるだろうか。


俺が、いるって。



「そうですね。だって、わたしには……」



きゅっと袖をつままれる。


亘さんの頬が少し赤い。上目遣いで見上げてくる。


あぁ、亘さんはどうして、こんなに俺の心を掴むのが得意なのか。



「一刀両断!」



そこへ、谷口の手刀が亘さんの腕に直撃した。その拍子で俺の袖から亘さんの手が離れてしまう。


後ろには仁王立ちをした谷口がふんぞり返って眉を吊り上げている。



「帰るよ!」



べ、と舌を出して、先へ進む八木の方に駆けていった。


……敵わないな、谷口には。


亘さんは、谷口の後ろ姿を見て惚けていた。届かないものを見るような、それでもしっかりと追いかけているような目だ。


谷口は亘さんのことをライバル視してるのかもしれないけど、亘さんからは完全に憧れられてるよな。


自分の気持ちに正直に生きていることがよくわかるからこそ、谷口は眩しい。それは、俺にとっても同じだ。


だから……谷口は、俺の隣に立つにはあまりにも遠い。


皐月の言っていたことは気になるけど、俺の気持ちは谷口に向くことはない。絶対に。


今考えるべきことはひとつだ。


三好先輩になんて負けない。