谷口はそわそわと落ち着かない様子で俺を見上げてくる。



「えっと……理人は、なんで私も誘ってくれたの?」


「え?」


「いや、だって、亘さんと二人でデートできるチャンスだったんじゃないの?」



……確かに。


今思えばそうなんだけど、あの時点では俺は亘さんのことを好きだと認めていなかったわけだし、むしろ気持ちを谷口に向けようとも考えていた。


だから、期待の目を向けてくれる谷口には悪いんだけど……結果的には、一時の逃げ道だっただけで、意味のないことだった。


でも、その後のことを思い返して、あえて意味を作るなら……。



「亘さんがさ、不安そうだったんだ。だから、少しでも元気付けたくて。俺は、亘さんを安心させることしかできないけど、谷口は元気付けること、できるだろ?」



たぶん今、亘さんは不安定だ。


笑えるようにはなったものの、完璧ではなかった。だから、まだ笑顔に関するなにかしらが亘さんの足枷になっている。


そこで、谷口みたいなあっけらかんとしたやつが必要なんだと思う。谷口はいつも、何気なく発した言葉や態度で亘さんを救っているから。



「…………あーあ、つまり全部、亘さんのためってわけか」



谷口が目線を下に向けながら、ぼそりと何かを呟く。