「――それから、目を覚ましたら病院だった。そのときから母さんは俺達の前からいなくなって、父さんとの二人暮らしが始まったんだ」
もうすぐ、夏休みになるときだった。
父さんは三人で出かける計画を順調に立てていた。俺も母さんも楽しみだねって、笑い合ったあの日はいったいなんだったんだ。
「よく生きたなって、我ながら思うよ」
かなりの出血量だったし、アイツは俺を助けようともしなかった。
どうせ、父さんが帰ってきて病院に連れていってくれたのだろう。
それから、父さんも少し変わってしまった。俺に対して心配性になって、異性との関わり合いを警戒するようになったんだ。
だから、亘さんのことも良い印象じゃないだろう。いつ、どこで、誰が、アイツと同じ過ちを犯すかわからないから。
「……わたし、聞かない方がよかったでしょうか」
亘さんがぽつりと呟く。
「わたし、無神経に、あなたのことを知りたいなんて言ってしまって……っ」
「違うんだ。俺、亘さんに聞いてほしかった」
驚いた表情の亘さんと目が合う。
俺は、にこりと笑った。
「亘さんが俺の話を聞いてもなお、これからも付き合ってくれるなら、俺……もっと前に進める気がするんだ」
肯定も否定もしなくていい。
ただ、話を聞いてもいつも通りでいてくれるなら、俺はアイツに無関心になれる。
アイツを忘れられる。



