殺される。


母さんの顔をした女に、殺される。


ありえない。だって母さんは、こんなことをする人じゃない。


だって母さんは、俺を愛してるんだ。好きな人間に、そんなことをするはずがない。



――本当に母さんは俺を愛しているのか?



母さんは、俺が部活に入ってからすでに様子が変だった。でも、ずっと変だったわけじゃないから見て見ぬふりをしていたんだ。


だって、母さんは、俺を愛してるって言ってくれたから。


抜け出せないくらいに強く抱き締められたときも、「いかないで」と呟いていたときも、それが愛なんだと信じていたから。



「ねぇ、愛してる?」



俺は首を横に振った。


おまえなんて、母さんじゃない。



「私は愛してるわ……愛してるの……理人……」


「愛してない……。誰だよおまえ、母さんを返してよ……おまえなんか愛してない!」



俺が愛してるのは、母さんだ!


女はゆらりと揺れた。俺に馬乗りになって、ナイフを握る手をカタカタと震えさせている。



「ふふ……ダメよ、理人。お母さんにそんなこと言っちゃあ……だって理人はお母さんのことを愛しているもの……そう言ってくれたじゃない」


「おまえは母さんじゃない」


「どうして……? どうしてよ……どうして……」



母さんが俺の方へ倒れ込んでくる。


爽やかで甘い香りが鼻をくすぐった。