亘さんは世渡り上手




「――――はい」



凛とした返事が返ってくる。


いつも通り。俺をまっすぐ見つめてくる、無表情の亘さん。


のふりをした、泣き顔一歩手前の亘さん。



「別に泣いてもいいけど?」


「……いやです。笑顔より先に涙を見せるなんて」


「いやぁ……もう十分泣いてない?」



鼻すすってない?



「……っ、うるさい、ですね」


「笑顔より怒りを先に見せてるけどいいの?」


「へ、屁理屈ばっかり……」



睨んでくる亘さんにとびきりの笑顔を返してあげれば、亘さんははっとして首を横に振った。


そうそう。こういうときに言うのはなんて言葉だっけ?



「笑いたいなら笑えばいい、もっと自分勝手になっていい――。それが答えだったんですね……。ありがとう、ございます、和泉くん」



その亘さんの表情は。



「……笑った」


「えっ、本当ですか!? あっ、鏡、鏡……」


「表情固定できてないよ」


「えっ!? ま、また見られなかった……」



亘さんが、笑った。


ほんの一瞬だ。それも目に涙を溜めて眉を下げていたから、亘さんの求める笑顔とは少し違うかもしれない。


でも俺は、そんな亘さんを見て。


抱きしめたいって、そう思っ――――



「ただいまー、理人。……ん? 誰か来てるのか?」



そこで、玄関でドアの閉まる音に気づいた。