亘さんは世渡り上手



嬉しいような、そうでないような、変な感じだ。



「でもひとりのときだけでした。今日も笑おうと試してみましたが、口角の上がる感覚はなくて……。あ、今も……ですね」


「俺と二人でも、ダメ?」


「……すみません」



亘さんは下を向いて唇を噛んだ。膝の上で強く拳を握っているのが見えて、胸が締め付けられる。


少しずつ成長しようとしてるんだ、亘さんは。そして、少し……ほんの少しだけだけど、一歩進めた。


もっと進みたいのに進めないそのもどかしさが、亘さんを苦しめている。


それは俺にも身に覚えがあるから理解できた。


でも、俺は亘さんのおかげで人を好きになれた。信用できた。頼りたいと、頼ってほしいと思うようになった。


だから亘さんも俺の力でもっと前に進めたら――。



「わたし、わかっているんです。人前で笑えない理由」


「……なに?」


「人に、恋愛感情を抱かれるのが怖いんです」



あ。


ぐさり。どこかで太い釘が刺さる音がしたので、そのままねじ込んで抜けないようにした。



「俺は、もう亘さんを好きなふりをする俺じゃないよ。宇佐美は彼女がいるし、高橋にも好きな人がいる。その、せめて俺達の間は安心してもいいんじゃ……」


「わかってるんです! わかってる、つもりなんです……こればっかりは、自分で治せなくて」



ふるふると首を横に振る亘さんに、俺は何も言えなかった。