でも、救われたからって笑えるわけじゃない。大丈夫。亘さんの隣に立てるチャンスはまだある。



「……和泉くん」



亘さんがイスから立ち上がった。亘さんの前にいた俺は改めて対面することになって、まっすぐと見上げてくる亘さんにドキリとする。



「わたし、笑えてますか?」



少し潤んだ瞳に、赤らんだ頰。


綺麗だとは思うけど、決して笑顔とは言えない。



「笑えてない」



きっぱりと答えると、嬉しそうに「ですよね」と返してきた。



「和泉くん、これ、持っていてもらえませんか? いいえ、あげます。好きに捨てるなり燃やすなりしてほしいんです」



そう言って亘さんが取り出したのは……メモ帳だ。あの忌々しかった亘さんの弱点。



「無表情って、怖いじゃないですか。だからわたし、中学生のときからクラスメートの好きなもの、嫌いなもの、性格、いろんな情報を集めて、必死にメモをして頭に叩き込んでたんです。人を怒らせないように、嫌われないように。


今は……単純に興味で、みんなのことが知りたいってだけだと思ってたんですけど……。念のためです。もうメモ帳は卒業します」



俺の手の中に入れると……ぎゅっと、両手で包んだ。



「お願いします」



そんな顔で言われると、断れないじゃねぇか。