「きっかけは些細な嫉妬でした。わたしが笑うことで周りの目がすべてわたしに向くことが気に入らなかった人達が、少しわたしを怖がらせてきたんです。
笑わないで過ごすと何も起こらなくなったので、いつしかそれが自然になっていました。
それからは、笑おうとすると頭の中で響くんです。『笑うな。笑うな』って。それは、中学生のわたしが必死にかけてきた呪いでした。
わたしは……笑って、また人に嫌われるのが怖いんだと思います」
亘さんの話を聞いて、俺は考え込んだ。
人を不幸にする笑顔って、なんだ?
俺は……亘さんの笑顔を見れたら、幸せになれると思う。
だって絶対可愛いじゃん。可愛い女の子が笑ったら可愛いなんて普通じゃん。人間、可愛いもの見たら幸せになるじゃん。
その不幸になるって言ったやつがどんなやつなのかは知らないけど、少なくとも俺達のクラスで亘さんの笑顔を悪く言うやつなんていない。
「俺は、亘さんの笑顔を見たら亘さんにメロメロになっちゃうかもしれないなぁ」
「あ……白い和泉くんだ……」
「なにその言い方。あー、とりあえず、俺は嫌いにならないから。それだけ考えて練習したら? ……あ、谷口も確実に大丈夫」
「い、和泉くん……」
亘さんは嬉しそうに口を押さえ、笑顔を……。
「が、頑張ります! にこっ!」
「さっきと全然変わんないわ」
まだまだ練習は必要みたいだな。



