「なに?」

加島に向けている態度とは真逆に、理沙ちゃんはものすごくイヤな顔をしている。

私は部外者だし、ふたりの間に入り込む権利もない。でも本能的に止めなくちゃと、声が出てしまった。

だって、加島のこんな困った顔は初めて見たから。


「か、加島はこれから大事な用事があるっていうか……。すっぽかしたら人生終わるってぐらいの約束をしてるから、今日はとりあえず加島のことを連れて行っていいかな……?」

とっさに思いついた嘘が下手くそすぎて絶対にバレてる。


年上として表情は余裕ある感じにしてるけど、理沙ちゃんの顔が怖すぎて冷や汗が止まらない。

ヘビに睨まれたカエルのように、このままだと飲み込まれてしまうと思った私は逃げるように加島の手を引いた。


「い、行こう」

理沙ちゃんの視線が突き刺さる中で、私たちは歩きだす。すると、加島は顔だけを後ろに向けた。


「理沙。しばらくは家に帰らないから。母さんたちにもそう伝えて」


手を引いていたのは私だったのに、いつの間にか加島のほうが一歩先を歩いていた。