加島となら大きな口を開けて笑って、眉間にシワを寄せて怒って、あれをしたい、これをしたいってお互いに言い合える。


「とりあえず先輩の家に帰りましょう。その足でなにかを踏んだら大変でしょ」

「そうだね」


私たちはアパートへと引き返すために歩きだす。すると、加島が念を押すようにして言った。


「先輩、俺は先輩のことが好きだから家に戻ったんです。今までみたいに同じ部屋で寝るとか、正直きついですから」

「え、じゃあ、もう泊まったりしないの?」


結局、加島が借りてきてくれたDVDは観賞しないまま返却してしまった。だからこそ今度はコンビニでお菓子やジュースを大量に買って一緒に夜更かしできたらと思っていたのに。


「あのね、先輩。本当に分かってますか?知らないすよ。どうなっても」

「はは。うん」

「笑いごとじゃないです」


ふて腐れている彼の手を私から握る。加島は「はあ、もう」と言いながら、柔らかく握り返してくれた。


絶対に好きになるはずがないと思っていた。

でも、好きになった。

大切になった。

離れたくない人ができた。


だから、これからゆっくりきみとの恋を育てていこう。




《この恋は少しずつしか進まない》END