「えっと…今日の休みは…出口と中村と矢田とだな。」


毎時間、各教科の先生たちが授業ね始めに必ずその名前を口にする。
出口、矢田、中村。

クラスの他の誰かが休まない限りは、だいたいこの3人というメンバーになっている。
いわゆる、「登校拒否児」ってやつ。

あたしはその中の「出口」って名前が呼ばれる度、いつも少しだけビクッとする。
なぜなら、私の名字も「出口」だからだ。
どっちかって言えばめずらしい名前だし、
なんでよりによって同じ名字の不登校のヤツなんかと同じクラスにされたんだろ。

あたしはその不登校の“出口”に一度も会ったことがない。
出口は中学の入学式、つまり中学生活のしょっぱな一度も学校に来ていない。正確にいうと、小学4年生のころかららしい。
私の通う中学校は三つの小学校からの生徒が入学してくるから、自分の出身の小学校以外のヤツとは、ほとんど中学に入ってから知り合い、仲良くなっていく。
私とその“出口”は別の小学校で、お互いのことなんてもちろん知らない。
でもその不登校の出口のウワサは何度か耳にしたことがある。

ウワサ1:小学4年生の頃から太り始め、だんだん学校に来なくなった。
ウワサ2:多少はモテていたらしい。
ウワサ3:テレビゲーム好きで、今でもよくゲオやTSUTAYAに出没するらしい。
ウワサ4:たまに自分の家のまわりを犬と散歩しているらしい。
ウワサ5:母親が学校に行きなさいと言うと、嫌がって暴れたりするらしい。
ウワサ6:今はやせているらしい。

もちろん、どのウワサが本当でどのウワサが嘘かなんて私にはわからない。
だって会ったこともないのだから。
確かにわかっていることは、性別は男で、下の名前はヒロユキということだけだ。