「おはよう〜今日は、お墓のための石を探しに行きたいんだけど、いい場所無いかな?」

「石か〜?それなら村に行く?」

「えっ?村なんてあるの?」

「お主、私らが鬼だからってバカにしてるのでは、なかろうな?」

ほっぺを膨らませて鬼姫が文句を言ってきた。

「子供っぽくて可愛いな」

「はぁ?誰が子供ですって、そんな事を言うならもう連れてあげないから。ふん」

どうやら鬼姫は、すねてしまったようだ。
出会った時は、いきなり頭を踏みつけて来るような怖い娘だと、思っていたがどうやら中身は、可愛い女の子のようだ。

「ごめんごめん。鬼姫は、子供じゃないよ」

って言ってあげるとすごく喜んで、甘えてくる。そういう所は、すごく可愛いが怒るとすごく怖い…

この前も、鬼姫の大事に取っていた蜂蜜をこっそり食べた時は、鬼のような顔で怒られた…。まあ鬼なんだが…


「あっ。俺ここのお金持ってないよ?」

「大丈夫よ。ここ基本物々交換だから、それに石なんてタダでくれるわ」

そう言うと鬼姫は、洞窟から出ていってしまった。

「待ってくれよ」

桃太郎も、慌てて後を追いかけた。

「追いついてみろ〜」

なーんて軽いノリで走り出す鬼姫。
しかし、鬼と人間では、体の作りが全然違う。

桃太郎が外に出た時には、かなり遠くを走っていた。

(嘘だろ?速すぎじゃん)

桃太郎も、全力で追いかけたが追いつく事ができなかった。それもそのはず、鬼姫は、鬼の中でもトップクラスの身体能力をもっていたのだ。

「はぁはぁ…鬼姫速すぎ…」

「だらしないの〜」

鬼姫は、呆れた顔で桃太郎にそう言うと桃太郎を背負って走り出した。

「ちょっ…何すんだよ?」

桃太郎が聞くと、鬼姫は、「何ってお主が遅いから運んでやるのじゃ。感謝するのじゃぞ」

そう言って鬼姫は、走り出した。

桃太郎を背負っているというのに、まるでスピードを落とすことなく、いやもしかするとさっきより早いかもしれない…

「ちょっ…鬼姫さん…速すぎ…」

桃太郎の弱気な発言を無視して鬼姫は、走り続けた。

しばらく走り続けると鬼の村が見えて来た。

「あそこが私達の村じゃ」

そこには、たくさんの鬼たちが働いていて皆幸せそうに笑いあっていた。

「へー。いい所だな」

「ん…まあな…」

「どうしたんだ?」

「ちょっと疲れただけじゃ…」

「あっ、悪い。すぐに降りるよ」

「かまわん。村まであとすこしじゃのっておれ」

そう言って鬼姫は、桃太郎を乗せたまま走り続けた。

「はぁはぁ…さすがに疲れたわ」

「悪かったな。最後まで乗せてもらって」

桃太郎は、カバンから水筒を出して鬼姫に渡してあげた。

「ごくごくごくごく…んー美味い。やはり走った後の水は、美味いのう」

鬼姫は、水筒の水を全て飲み干してしまった。

(俺の水が…)

「ありがとな。乗せてれて」

「お主だから乗せてやったのじゃ」

鬼姫は、桃太郎に聞こえないくらいの小声でそうつぶやいた。

「今何か言ったか?」

「いっ…いや何も言っておらぬぞ」
(あーびっくりしたー。聞こえたのかと思ってドキドキしたわよ…ってなんで私、あいつには、こんなに優しくしたいと思うんだろ?)


「…姫…姫…聞こえてるか?」


「えっ?何?ちょっとぼっーとしておったわ」

「石貰えるとこは、どこかって聞いたんだが…まだ疲れてるんじゃないのか?」

「大丈夫だから。ついてきなさい」

そう言って鬼姫は、走って言ってしまった。

「ちょ…待ってくれよー」
(あいつってたまに可愛い喋り方するんだよな。声も可愛いし顔も悪くないし…って何考えてるんだ俺は。俺は、あいつの親父さんの墓を作りに来たのに。なんで、こんな事を考えてるんだ。もしかして俺は、あいつの事が…)

「離せ無礼者」

桃太郎は、鬼姫の声で我に帰った。

「鬼姫?どうした?」

桃太郎が駆けつけると鬼姫は、2人の鬼に腕を掴まれていた。

「鬼姫を離せ」

「桃太郎…」

「なんだテメー?」
一本ツノの鬼が桃太郎の胸ぐらを掴んで来た。

「殴りたければ殴れ。ただし鬼姫には、手を出すな」


「へー、いい度胸してんじゃねえか。ならお望み通り殴って…ウッ…イデー」

1本ツノの鬼が急に苦しみだしそして桃太郎の方に倒れてきた。
(おい…嘘だろ…)

ドサッ…
桃太郎が鬼の下から抜け出すと、なぜか2本ツノの鬼が震えていた。

「桃太郎〜怖かったよ〜」

鬼姫は、泣きながら走ってきた。
なぜか2本ツノの鬼があぜんとした顔をしてるのは、謎だが…

よしよし。桃太郎が頭なでてあげると鬼姫は、嬉しそうに笑っていた。

「そう言えば、なんであいつは、いきなり倒れきたんだ?」

「さあのー、私も怖くて目をつぶっていたから見ていなかったぞ」
(目を逸らしながら言われても…見なかった事にしておこう)

「あのーすみません」

2本ツノの鬼が話しかけてきた。

「ん?なんだ?」

「あっ、いえあなたでは、なく鬼姫様にご相談が…」

「む?相談じゃとさっきは、強引に連れていこうとしたくせに」

鬼姫は、不機嫌に答えた。

「申しわけございません…急を要する用事で我々も苛立っていたもので…」

(こやつら、何を企んでいるのじゃ?まさか…)

「それで相談とは、なんじゃ?」

「ありがとうございます。実は、鬼の王が亡くなってから人間社会に溶け込んで生きて行こうと島を出ていく者が増えましてね…」

「それがなぜ私をさらう理由になるのじゃ?」

「そんなの決まってるじゃねーか。お前が鬼の王の娘だからだよ」

さっきまで倒れていた1つツノの鬼が立ち上がり答えた。

「…やはりそうじゃったか…」

「やはりだと?てめぇふざけてるのか?」

「やめろ」

鬼姫をかばうように桃太郎は、1本ツノの鬼の前に立ちふさがった。

(桃太郎…すまぬ…私のせいで)

「そこをどけ」

1本ツノの鬼が怒りに任せ殴りかかってきた。

「桃太郎ー」

ドスッ

「グハッ!!」

桃太郎は、鬼の攻撃をひらりと交わし鬼のお腹に右ストレートを食らわした

「てめぇ…やるじゃねえか…」

ドサッ…

「私は、皆に迷惑をかけた…皆のために新しい王になろう…」

しかしそれは、もう桃太郎と暮らす事が出来ない事を意味していた。

そしてここに来ることで鬼姫は、自分の気持ちに決着をつけようとしていた。

「桃太郎…今までで、こんな私に付き合ってくれてありがとな」

あふれ出そうになる涙を必死に堪えて鬼姫は、桃太郎に気持ちを伝えた。

「何言ってるんだよ。俺達まだ出会ったばかりじゃねーか」

「…すまぬな…お主と私では、住む世界が違うのじゃ…」
(いやじゃ…私も、桃太郎と離れたくない…)

「住む世界が違うだって?親父さんは、そう思って無かったと思うぞ」

「なにを…お主に何が分かると言うのじゃ。鬼の姫として生まれ。皆から期待され、そして王族故の力に怯えられ生きていた私の気持ちが」

「分かるよ…俺も、桃から生まれた化け物扱いされて育ってきたからな。俺の事をちゃんと見てくれたのは、ばあちゃんとじいちゃんだけだった。猿、キジ、犬…あいつらと一緒に旅をして少しづつ相手を思いやる気持ちが芽生えた。そして鬼王さんと戦って……鬼王さんの事をまるで父親のように思えた。強さこそ全てと思っていた俺の氷の心をあの人は、溶かしてくれた。そんなあの人に、娘を任せるって言われた時めっちゃ嬉しかった。この人も俺の事をちゃんと見てくれてたんだって…でも同時に、めっちゃ不安だった…彼女を大切に出来るんだろうか…彼女を自分なんかが幸せにできるんだろうかって…だけど鬼姫、君と出会って君の色んな表情や仕草を見ているうちに、俺の心から不安は、消えていった。いやこの幸せをずっと共に過ごしたいと思った。鬼姫君が好きだ。俺とこれからもずっと永遠に一緒にいてほしい」

「桃太郎…ありがとう。お主の気持ちは、とても嬉しいよ…だが無理なのじゃ…鬼の城には、人間は、入れぬ…故に一緒に暮らすことは…」

「結婚出来るわよ?」

鬼姫の言葉をさえぎるようにキジが降りてきた。

「!!!!」

「なんじゃとー?」

「声でかすぎー」

「わっ、悪い…そんな事よりその方法とは、なんじゃ?」

「あんた王族のくせに何も、知らないのね?真名(まな)を付ければいいじゃない?」

その言葉を聞いて凍りつく鬼たち…

「なっ…なにか悪いこと言った?」

キジが戸惑い気味に聞くと鬼姫は、くらい顔で答えた。

「確かに、その方法なら桃太郎を鬼に生まれ変わらせる事が出来る…けどそれは、同時に魂を縛ってしまうの…」

ゴクッ

「つまり…」

「そうじゃ…桃太郎は、心を失ってしまう…」

うなだれるキジと鬼姫…

「つまり、桃太郎が心を持ったまま鬼になればいいんだろ?」

突然後ろから声がきこえ、振り向くと死んだはずの鬼王が立っていた。

「鬼王さん…なんで?」
「パパ?なんで生きてるの?」
「鬼王様生きておられたのですか?」
「鬼王…次こそ俺が勝つぜ」

「ハッハッハ…1人変な事を言っているやつが居るがワシは、死んだぞ」
(この人は、なんでこんなお気楽なんだ…)

桃太郎がそんな事を考えていると鬼王は、突然語り出した。

「桃太郎よ、やっと娘をもらってくれる気になって嬉しいぞ」

皆の視線が桃太郎に集まり桃太郎は、恥ずかしさで真っ赤になっていた。

「娘さんを幸せにします」

「あり…がと…」

鬼姫も、みんなの注目を浴びて真っ赤になっていた。

「それで、その方法って何?」

冷静にキジが聞くと鬼王は、忘れていたのか、一瞬困った顔になり、語り出した。

「ここ鬼ヶ島の地下には、地獄に通じる穴があるのだがな。新月の日に、穴が開き地獄に行けるのだ。しかし朝になると穴は、閉じてしまう。限られた時間で閻魔に会い、鬼にしてもらって帰って来るのじゃ」

そう告げると鬼王は、闇に消えて閉まった。

急いで鬼ヶ島の地下に続く階段を一行。
「桃太郎…気をつけて行くのじゃぞ」

「なーに、いざとなれば俺が助けてやるよ」

なぜか一緒についてくる1本ツノの鬼。

桃太郎たちが穴に入ろうとした時、懐かしい声が聞こえてきた。

「桃太郎様、私達を忘れていますよ」

思わず振り返る桃太郎。

そこには、かつての仲間。猿、キジ、犬が立っていた。

「お前達…ほんとに付いてきてくれるのか?もう帰ってこれないかもしれないんだぞ?」

「私達と桃太郎様は、一心同体じゃないですか?」

「ありがとう…では、行くぞ」

そうして、桃太郎達は、旅立って行った。